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2021.03.28 (sun)
レポート
鹿児島×渋谷 クリエイティブシンポジオン <SESSION_1>クリエイティブシティの作り方―前編―
鹿児島市は、新たな価値を想像するクリエイティブ産業の振興に力を入れています。2019年には「クリエイティブ産業創出拠点mark MEIZAN(マークメイザン)」が誕生。毎年「鹿児島デザインアワード」を開催するなど、クリエイターと企業をつなぐ事業を行っています。
今年1月23日(土)・24日(日)、鹿児島市のクリエイティブ産業をどのように盛り上げていけばよいか、そのヒントを探る「鹿児島×渋谷 クリエイティブ・シンポジオン」が開催されました。国内外で活躍する多彩なクリエイターの皆さんと、このmark MEIZANをリモートでつなぎ、ローカルシティにおけるクリエイティブの未来を語ったトークセッションのようすをご紹介します。
<SESSION_1> クリエイティブシティのつくりかた
ー前編―
▶︎オープニングトーク:鹿児島市の取り組み・mark MEIZANの紹介
▶︎トークセッション テーマ1:コロナウイルス感染拡大によって都市と地域の関係はどう変化するか?
▶︎トークセッション テーマ2:クリエイターが住みたくなる街と集まらない街、その差はどこにある?
ー後編―
▶︎トークセッション テーマ3:どんなクリエイティブがまちを面白く、まちを豊かにするのか?
▶︎質問コーナー1:これからのクリエイティブシティに求められる人の特徴とは?移住に向いてる人とは?
▶︎質問コーナー2:鹿児島は移住者や関係人口の人たちからすると、働きやすい?敷居は高い?
▶︎エンティングトーク:本日の感想と鹿児島市へのメッセージ
▶︎オープニングトーク
鹿児島市の取り組み・mark MEIZANの紹介
鹿児島の新しいはたらき方を創造するmark MEIZAN
坂口:今日のこと、すごく楽しみにしていました。みなさんそれぞれ東京からですよね?柳澤さんは鎌倉からですかね?柳澤さんの「カヤック」に以前在籍していた、鹿児島の友人がこのmark MEIZANの目の前の建物でレストランをやっているんですよ。そんな縁もあって、いろいろとお話はうかがっていたので、すごく興味をもっていたんです。柳澤さんは、鹿児島にいらしたことはありますか?
柳澤:ずいぶん昔ですけど、あります。黒豚の牧場に行きました!もう20年くらい前ですね。それ以外は行ってないかな。
坂口:今日はその20年後の鹿児島をいろいろ知っていただくという意味でも、お話しできればと思います。井上さんは、鹿児島に赴任されていたんですよね。もう有名な副町長でしたけれども。そのときの思い出というか、鹿児島はいかがでした?
井上:2年間在籍していたわけなんですけど、今日も長島町の町長からこのマンダリンをいただきました。これがものすごく美味しいんですよ!4年経ってもこうやってみなさんに声を掛けてもらえるのはすごく嬉しいし、ありがたいです。
九法:今日着ている着物も大島紬なんですよね?
井上:そうなんです。世界三大織物ですから。いいものいっぱいありますからね!
坂口:井上さんは、飲み物は薩摩紅茶だったりと誰よりも薩摩愛がすごいんですけれども(笑)柳澤さん、「中馬さん」って珍しいお名前だと思われたんじゃないかなと思うんですが、「中馬」は「中(なか)」の「馬(うま)」って書いてチュウマンって読むんですよ。
柳澤:鹿児島の名前ですよね、知ってます!
坂口:そう、たくさんいるんですけどね。僕の友人で鹿児島に住んだことはないけれど、鹿児島がルーツの「中馬さん」がいて、みんなにあだ名だと思われていたって言っていました。あの筋肉マン的な感じで思われてたって(笑)そんなメンバーでお送りしたいと思います。
いま、僕らの背景に桜島がどかんと映っているんですけれども。今日の鹿児島は非常に天気が悪くて、こんな風には見えていないんですね。ただ、半袖でいても大丈夫なくらい今日は暖かいんです。普段は鹿児島市からこんな風に桜島が見えています。だいたいこういう環境にいるんですね。それで、いま僕らがいるこの場所が、mark MEIZANといいまして、鹿児島で新しい働き方とか、そういったものをつくっていくための施設として2年前に、ちょっと古い施設だったのをリノベーションして、新しく生まれ変わった施設です。まずは、ここがどういう場所なのか中馬さんの方から、ご紹介いただこうかな。WEBならではで、カメラで館内を映しながら紹介します。
中馬:いま映っている1階が交流スペースですね。コワーキングスペースとして、1階の部分はどなたでも利用いただけます。今コロナ禍にありまして、いろんな方々がリモートワークやワーケーションだったりと、このmark MEIZAN目がけて来ていただいております。いまはどうしても皆さんが片側を向いた状態で、感染防止に努めていただいているんですけれども、通常であれば、対面式でいろいろなことをお話ししながら、ワクワクするようなことを考えていく、というようなスペースになっています。
その隣りもちょっとしたスペースがあります。ここでもお仕事していただいてもいいです。若干飲食もできるというスペースになっています。
いろいろな方々にこちらに寄っていただいて、もうワクワクするような、本当に新しいクリエイティブなことを手がけていく。それも、かしこまってやるのでなくて、日頃のいろんな話の中から生み出されていくものだと思いますので、そういった交流の場にしていただきたいなと思っています。
坂口:今日は土曜日ですけど、仕事されてる方いらっしゃいますね。
中馬:そうですね。
柳澤:それは録画じゃないんですね?
坂口:はい、リアルタイムです。
中馬:リアルタイムですし、たぶんヤラセでもないと思いますが(笑)
九法:結構人がいますね。どんな人がいるんですか?どんな職業というか、どういうことされてる人なんですかね?
中馬:リモートワークで、東京の本社に3日しか行ってないという人たちもいるんです。鹿児島に一遍帰ろうという方々だったり。ワーケーションでいろんなところに行こう、という方々にも来ていただいています。徐々に知っていただいていて、延べ人数でも7600人ぐらいになっていて、登録者も約2000人。簡単に登録ができて、どなたでも使えるスペースになっていますので、ぜひ使っていただきたいなと思います。ここは1つの皆さんの拠点になっていくんじゃないかというふうに思ってます。このコロナの関係でより大事なスペースになってきたなと思っています。
坂口:今ご紹介したのが1階の交流スペースで、我々がいるのが2階です。イベントを開催したり、そういうスペースです。隣にはキッチンスタジオもありますね。
中馬:2階のこのスペースも、コロナ禍にあって、WEBのセミナーなどで利用されてますし、テストキッチンも隣にあって、料理関係の商品開発や、試食会であったりとか、そういったこともできて、多目的に使えるスペースとしてmark MEIZANをどんどんPRをしていって、使っていただきたい、というふうに思っております。
坂口:このmark MEIZANっていうのは名山町っていうとこにあるんですけども、「名山」はかつてお堀があったそうです。僕が高校生ぐらいの頃は、この辺りはあんまり寄り付きにくい雰囲気でした。鹿児島は第二次大戦で90%ぐらい空襲で焼けているそうですが、ここは奇跡的に残ったところですごく古い、小さい路地みたいなのもいっぱいあって。当時は昼間っから飲んでるおじさんがいっぱいいたりしましたよね。市役所がすぐ目の前ですけど、そんな場所でした。今はその小さいエリアに、「バカンス」っていうコミュニティスペースができたり、元カヤックの方がやっている小さなレストランがあったり、オーガニックなレストランができたりして。飲食なども含めて、若い人も起業しているような、当時とは違って活性化してるようなところです。その真ん中にあって、何かその名山町のランドマークになるような施設ということで、mark MEIZANとしてやっています。
中馬:ありがとうございます。
坂口:今この場所がどういうところかというのを知っていただいたところで、本題に入っていこうかなと思います。九法さん、本題に入っていきましょうか。
▶︎トークセッション テーマ1
コロナウイルス感染拡大によって都市と地域の関係はどう変化するか?
商習慣はオンライン化し、物理的な距離は越えていく
九法:はい。今日のテーマは「クリエイティブシティのつくり方」ということで、まさに鹿児島の治安が悪かったところが良くなって、活性化しつつあるというような現場を見させていただいたところですが、ぜひ先陣を切って取り組まれてきたお二人にお話を聞きながら、後ほど中馬さんに、お二人からのアドバイスをもらえるような場面を設けたいと思います。
昨年からコロナウイルスが猛威をふるっているわけですが、これによって僕たちの意識自体がすごく変化したのかなと。僕は東京に住んでますが、2拠点生活を考えたりもして、移住したっていう友達もポツポツ出始めてきたんですよね。そんな中で、コロナによって都市と地域の関係というのがどういうふうに変わってきたのか、あるいはこれから変わっていくのか。そこに集まる産業や、あるいは住んでる人や働いてる人、こうした人たちの意識がどういうふうに変わってきたのか、そのあたりから、ちょっとお話を伺っていきたいなと思います。
まず柳澤さんにお伺いしたいと思います。
柳澤さんが、今代表を務められてるカヤックは、早くから本社がそもそも鎌倉にありますし、柳澤さん自身が「地域資本主義サロン」というオンラインサロンを運営なさっていると思うんですが、その中で全国津々浦々の人たちと交流する機会も多いと思うんですね。このコロナの中で、どういうふうに地域で変化が起きてるか、今感じられていることを聞かせていただければと思うんですが、いかがでしょうか?
柳澤:そうですね。データでしっかり出てるんですけど、移住サービスの需要が増えています。実際鎌倉市の転入数と転出数を見ると、転入数の増加幅が広がっています。昨年7月には、初めて東京が転出超過になりましたよね。この状況は、東京の方の感覚では移動したい意欲が高まってきたっていう感じですよね。
これは1つは、人々の気持ちが変わったっていうよりも、今まで絶対会って話さなきゃという、ただただ習慣的にやってただけで、実際はオンラインでも大丈夫じゃんっていうことが分かったということ。思った以上に、経済がデジタル上で動いているんですよね。絶対リアルで会う必要がある業種ももちろんありますが、パソコン上で仕事してる人たちが多く、オンラインで対応が可能になったっていう流れは、ようやく動き出したかなって思うところですね。そういう時代になるだろうと思って「リビング・シフト」という本を去年出しましたが、予想以上に一気に進んだ印象です。
九法:なるほど。柳澤さんは「SMOUT(スマウト)」という移住のためのプラットフォームを運営されているわけですね。この場所が特に増えてるとかってあるんですか?鎌倉はもともと多いイメージはありますが。
柳澤:今はやっぱりフルリモートとは言いつつも、月に何度かは会社に行く人も多数いるので、いきなり東京の人が鹿児島に行くというのはまだハードルが高い。近郊ですよね、都市近郊。その考えからすると、鹿児島で狙う場合には福岡で働いてる人とか、その辺りの動きですよね。ただアクセスの良い飛行機での移動などが加わってくると、実は意外と東京から近いねって掘り起こされるエリアも結構ある。そういうところを狙えるかなと思います。
九法:都市近郊が増えているという話でしたが、マークメイザンにもワーケーションで来てる人もいるっていうようなお話がありました。実際コロナになってから鹿児島の中で、どういう変化が起きてるのでしょうか。働き手とか、もともと住んでる人、あるいはそこで起きてるビジネスみたいなもの、何か感じられている変化があれば、中馬さんあるいは坂口さんに、ちょっと伺えたらなと思いますが、いかがでしょう。
中馬:鹿児島も確かに今までは首都圏等への流出が多かったです。ただ今年度、4月から11月ぐらいまでの去年との比較になるんですけども、流入が増えているんです。今までは一方的に流出だったのが、流入に変わってきた。やはりそれはコロナの関係であり、命に関わるというのがありますから。それが人を動かしたという部分もあるかと思います。
そして、柳澤社長が言われたように、ある程度、リモートワークの土壌があって、それを受けられる方々がいて、まずその方々が動いたというようなことかと思います。特に、私どもがよく会うリモートワークの人たちは、やっぱり若い人たちが多い。会社として整っているところが先にやっている。それから少しずつ、じわじわと整備している会社が増えてきているということになるのかなと。
坂口:僕の実感だと流入もあるにはあると思うんですけど、流出が減ってるなっていう感覚はしますね。先ほど柳澤さんがおっしゃったように、商習慣がやっぱ変わったんですね。僕も2拠点で両方にオフィスがあって、東京の仕事はやっぱり東京に行かないとというのはありましたが、もう来なくていいですと、できれば来てくれるなっていう状況になっちゃったので、非常に助かってます。緊急事態中はずっと鹿児島にいて、東京の仕事は全然それでできちゃうんですよね。そういう意味では、流出が減ってるのかなという実感はすごくあります。
あとは精神的な距離。先ほど、首都圏から近いという話もありましたけど、物理的な距離と精神的な距離ってあると思っていて、精神的にシンパシーを感じてるところは行きやすいっていうのはありますよね。僕は東京の家は神奈川県にあるんですけど、池袋よりも鹿児島の方が精神的には遥かに近いと感じています。そういう人が増えてくると、何か行き来が活発になるような気はしますね。
九法:そうかもしれませんね。流出が減っているというお話、あと物理的な距離と精神的な距離のお話、面白いですね。井上さんにも伺いたいなと思います。
井上さんは、長島町の副町長を経て今は内閣府。政府のまさにど真ん中で地方創生のことをされている。このコロナを受けて、地方創生の戦略もある程度見直さざるを得ないというか、修正をしていく必要があるんだろうなと思うんですが、そのあたり大方針は、どういう方向に行こうとしてるのか?
特にビフォーコロナ・アフターコロナ、前と後でどう変えようとしているのか。そのあたり、今の動きを話せる範囲でお伺いしたいです。
井上:今回の補正予算の目玉は、テレワーク交付金100億円ですよね。まさに、テレワークを地方創生でどんどん推進していこうということですし、もともといろんな日本の問題って、人口の一極集中から起きているものがすごく多かったので、世界でも一番、東京都市圏が圧倒的に人口集中していて、メリットだけじゃなくてデメリットも広がっている中で、いかに首都機能を分散していくかって、コロナは追い風になったんですね。
九法:なるほど。もともと言われてた東京の一極集中みたいなものの歪みというのが一気に、ポジティブな方向に進み始めたとも言えるってことですよね。
そういう意味だと、もともとコロナがある前からずっとその歪みみたいなものが言われてたわけですけども、さらにより本質的な豊かさみたいなものを人々が求める、求めたいというか、そういう傾向がどんどん強くなってきている。それこそ、物理的な距離はあまり関係なく仕事ができるようなデジタルの環境も整っているので、そういうハードルもどんどん下がってきているというころなのかな、と思いますね。
▶︎トークセッション テーマ2
クリエイターが住みたくなるまちと集まらないまち、その差はどこにある?
オープンでフラットな地域の文化が、まちを面白くする
九法:そうは言っても人が集まるまちとなかなか集まらないまちの差っていうのはやっぱりあるのかなという気がするんです。今回のトークが「クリエイティブシティのつくり方」というテーマを掲げてますが、やっぱりそのまちを活性化させるための一つの鍵になるのがクリエイティビティだとすると、そのクリエイターたちをどうまちに連れてくるのか、あるいはもともといるクリエイターたちをどう流出させないのか、そういうことがすごく重要なのかなというふうに思っています。
そうすると、そのクリエイターたちを惹きつけるまちと、そうじゃないまちとの差はどこにあるのかという話を、ぜひまた皆さんに伺っていきたいと思います。
柳澤さん、先ほど今の移住の傾向はやはり都市の近郊だっていうお話がありました。今はそうだと思うんですけど、これからは一極集中の歪みが是正されていって、少し分散の方向に行くとしたら、面白い人やクリエイターが集まるまちの条件っていうのは、どういうところにあるのか?何か感じられることがあれば教えていただきたいです。
柳澤:クリエイティブな人、クリエイターというのは、いろんな意味があるんでしょうけど、狭義の意味で、いわゆるみんながイメージするクリエイターみたいな人が集まると、確かにまちが面白くなる。ポートランドとかもそうですね。そのようなイメージに沿ってやるのであれば、まずその物理的な側面で面白いクリエイターがたくさん集まってるとこに集まるので、今までどうしても東京が有利だったと思うんです。そこに面白い良い仕事があるから、良いクリエイターが来て、刺激もある。それが分散されていくときに、やっぱり一つは自然ですよ。
海と山があるところは究極のクリエイティブ。作られたものではないので、そこは圧倒的に惹かれるものがありますよね。そういう地方はいっぱいあって有利ですが、何かそこに、文化的な施設とか、伝統的なものがあるところはさらに有利ですよね。神社・仏閣といった伝統建築があるとか、そういうところは集まりやすいっていう側面があって。ただ僕が注目したいのはそのハード面ではなくて、マインド面のところなんですよね。
例えば、ポートランドに面白いドーナツ屋があるの知っています?ファンキーなおじさん2人が作っているんですけど(笑)この人たち、ドーナツを作ったこともなければ、料理すらしたことのなかった人たちだそうです。だけど思いつきでやって大人気になっているんです。ポートランドってそういう面白いものがあって、人が惹かれていくっていうときに、どこでやっても流行るのかもしれないけど、こういうものを受け入れる土壌って、マインドみたいなところがやっぱり必要。
会社には社内文化というものがあって、オープンでフラットな文化もあれば、すごい閉鎖的で、ヒエラルキーの強い文化みたいなものもある。クリエイティブな会社って2つあるんです。
1つはトップがクリエイティブで、トップダウンで作品を作っていく。これはこれで、まちづくりにおいても見られる事例だと思うんです。誰かの設計案に沿って、ある種、独善的なほど強いリーダーシップを持った首長のもと、超クリエイティブになっていくっていうもの。
もう1つは、もう何でもありでフラットなもの。うちはそういう感じですけど、そういう文化で下からボンボン面白いものが生まれてくるっていう文化もあって。そう考えると、地域も一緒なんですね。
ハード面から、その地理的・物理的なそのものによって生まれるのもあるけど、面白いものが生まれやすい文化っていうものが、どういうふうにして鎌倉で作れるのかなっていうことを考えてたんですよね。
鎌倉はもともといろいろな歴史や文化、面白い人が集まっている場所だけど、それでもやっぱり会社だったらもっとフラットになるために研修をしたり、社内の評価制度をフラットになるようにしたり、社内文化を作る投資をするわけですよ。でも、地域の文化を作るための投資って、行政はほとんどしてない。だけど、ここを意識してフラットにしたら、新しい人をどんどん受け入れたり、手を挙げた人を応援するという文化ができるはずなんで、地域の文化を変えるっていうのも、クリエイティブシティになるためには、ものすごい重要なんじゃないかなと思っています。
それで「カマコン」という地域団体をやり始めたんです。普通はまちに行って、何か面白いこと、まちづくりをやりたいって人の会議に行くと、誰かが行政に陳情して、文句を言うみたいな、そういう空気が多い。そのときに、いやいや違いますと。文句言って陳情するんじゃなくて、どうやったらいいか、みんなでアイディアを出して考えましょうっていう、ブレーンストーミングの手法を使って、みんなを巻き込んでやると、地域の文化がそういうクリエイティブな雰囲気になっていくっていう感じ。
これは、実はとっても重要なことだなと思っています。そういうまちづくりは、JCなどいろいろな組織や団体が取り組んでいるわけですけど、「カマコン」がいろいろな地域に広がっているのはおそらくそこで。アイデアを出して地域の文化がフラットになって、クリエイティブになるような、そのマインド面の変化といいますか、それが必要だと思っています。そういう意味で「カマコン」は特に、こんなことをやりたいっていうのを、時には外部の人が当事者意識を持ってプレゼンするんです。住んでる人がそれを応援することによって、気づいたらプレゼンターが移住していたみたいなことになるんですよ。
だからクリエイティブなまちの条件って、ハードの面を先に話しましたけど、実はマインド面で、文化にも投資しているまち。それをたまたま僕らは民間でやりましたけど、行政もそこにもっと投資していいのでは。例えば、町内会でフラットになる研修を、クリエイティブになる研修をやるとか、そんなふうに投資しているまちはこれが強いだろうなと。
九法:そうですね。確かにそのハード面で、自然とか文化とか歴史遺産みたいなものに惹きつけられて、移住してみたものの、結局そこのオープンでフラットな地域の文化みたいなものがなければ、結局戻っちゃうみたいなところがあるわけですよね。
柳澤:そうそうそう。
九法:なるほど。結局そこに1回惹きつけたとしても、そういう人たちが定住したり、あるいはまちの人たちがそこに加わったりして、まちの文化みたいなものが作られると。
柳澤:そうそうそう。そういうものだと思う。目には見えない文化みたいなところへの投資って観点も行政は必要なんじゃないかなと思います。
九法:ありがとうございます。地域の文化っていう、すごい大切な面白いキーワードが出てきましたけれども、井上さんいかがでしょう。
井上さんは、まさに外様として長島町の副町長をされていたわけですけども、この地域の文化をどういうふうに作るかって話は、まさに苦労されたポイントなのかなと思うんですが、今の柳澤さんのお話から、どういうことをお感じになりました?
井上:地域の文化への投資って、めちゃくちゃいい言葉だなと思って、一生懸命メモしています。
長島町でやってたことも、実は自助・共助・公助の共助の仕組みをデザインするところで、例えば地元に戻れば返済補填する「ぶり奨学金」とかも、単にお金を渡すだけじゃなくて、そのお金の元資は町の人がみんなでお金を出し合っているんです。あるいは、町の出身者がふるさと納税で出し合って、共助の仕組みをデザインしているからこそ、みんなで何か町のためにや何かやりたいな、地域のために何か言いたいなという人がたくさんいらっしゃるんです。そういう人を具体の形に持っていくってすごい大事だなと思っています。
長島町は地域の人が集まって「地域が元気になるバーベキュー」っていうのをずっとやっています。みんなで食材だけでなく、やりたいことを持ち寄ってですね、いろんなことをずっとやっていました。鎌倉もまちの社員食堂とかもあって、いいなと思っています。やっぱり食ですよね。鹿児島の姉妹都市である山形の鶴岡でも、さまざまなベンチャー企業とかたくさん生まれてます。イタリアンレストラン「アル・ケッチァーノ」は地元の食材をいかして展開しています。食がいいので、やっぱりそこで働きたいという人も多いですよね。
それと教育ですよね。軽井沢は昔は別荘地でしたが、今は日本の最先端の教育の地として認識されている。だから東京から群馬県を通り越して軽井沢に住む人が多いのは、そういうことですよね。
九法:そうですね。それこそ軽井沢でいうと「風越学園」のような学校ができて、面白い人たちが集まってるみたいなところがあって。やっぱりそれを今子供がいる僕からしても、子供の教育を考えちゃうと、なかなか一歩踏み出せないみたいところがあると思うんです。それが一つの鍵になってくるということですよね。
井上さんと柳澤さんの話を受けて、中馬さんにお尋ねです。
鹿児島もそれこそクリエイティブ産業の振興に力を入れようとされてるわけですよね。そもそもなぜ、鹿児島はクリエイティブ産業に力をを入れようとしたのか。今どういうことを考えられてるのか?また、地域の文化をどう作るかっていうところがすごく重要なんだというお話もありましたけど、今考えてること、取り組まれてること。そもそもそのクリエイティブ産業に力を入れようと思ったこと。そのあたりを聞かせていただけますか?
中馬:鹿児島では第一次産業が非常に進んでいます。農畜産物であったり食に関しては非常にいいものが揃っているんですね。例えば、牛肉であったりすると全国和牛共進会のベストワン・総合優勝をするというようなところで、5年間はもう鹿児島の和牛が一番だというようなお墨付きをいただいてます。先ほど柳澤さんが言われた黒豚もですね、非常に美味しい。そういった文化はあるんですけども、それに付加価値がつかず、なかなか所得が伸びないっていうのがあります。ですから、どういうふうな形で見せる・売る、いろんなシステムも含めて、単に売るということではなくて、そこにどういったことができるのか。そこはやはりアイディアの世界だと思ってますので、クリエイティブ産業と一緒になることによって、鹿児島の経済を浮上させる、付加価値を上げていく、そういったことで取り組んでいきたいと思ってます。
本当に素材はいいものがある。だけど、PRの仕方が良くないというか、足りてないのか、届いていないのか…そういった課題があります。このmark MEIZANにも、例えば、牛の育成に向けてAIを使い人の力を使わなくても、効率的に育成ができるというようなシステムを開発しようとしている会社等も入ってますので、いわゆるスマート農業にも力を入れています。そういった方向にシフトしていけるイノベーターを大切にしていきたいし、そういったことを生み出していくインキュベーション施設として機能してほしいと思っています。
鹿児島市でも、一つの切り口として人材育成という面で広報戦略室がありますが、その広報戦略室がまた若者を中心に「PLAY CITY! DAYS」という、今年2回目となる取り組みをしています。それぞれ10地域ぐらいに分かれて、核になる人たちと交流したり、歴史的な背景などいろんなものを掘り下げて動画を作りましょうという企画でやっています。今年はリモートでの開催となりましたが、それでも皆さんが動画を作って仕上げていました。県外の方々も参加していただきながら、鹿児島の魅力を感じていただく、関係人口を増やしていく、そういったことにも取り組んでいます。
それと「リノベーションスクール」ですね。これも29年度から実施していて、地域に空き家がある、その空き家をどう生かしていくか。そこに対してまずアイディアを出し合って、半径200mぐらいのところに非常に良い影響を与えるようなお店を作ることになりました。東京から大島芳彦さん、リノベーションの世界では第一人者と言われている方などにお越しいただいて、助言をいただきながら、人材を育成するというようなことをやってます。
これらスクールの受講生であったり、先ほどの「PLAY CITY! DAYS」での受講生たちが相互にいい影響を与え合って、鹿児島からまたいろいろ発信をしたいという若者が増えているので、先ほど柳澤さんが言われた、クリエイティブにいくためにはやっぱり人づくり、人材の育成っていう部分にもいろんな形で繋がっていく、そういったことになっていきつつあるのかなと思っております。
九法:ありがとうございます。ちょっと覚えられないぐらい多くの施策を行っている、やろうとしていることがよくわかりました。
坂口さんは、それこそコロナになってから、まさに東京と鹿児島の2拠点で生活されていて、どちらかというと今はもう鹿児島に拠点の中心が移ってるんだと思うんですが。坂口さん自身もミュージシャンとして活動されていたり、あるいは今ご自身の会社でいろんな企業とかのブランディングのお仕事とかもされている、まさにクリエイターだと思うのですが、クリエイター坂口さんとして感じる、鹿児島の魅力ってどこにあります?
坂口:柳澤さんが狭義のクリエイター、広義のクリエイターって切り分けたと思うんですけど、まちに関わるようになると、何かプレイヤーっていう言い方されたりしますよね。それもまちの中のクリエイターでパフォーマーだと思うんです。そうすると、そのパフォーマーが活躍できるステージみたいなものが必要で、それは鹿児島市もいろいろ作っていると伺えるのですが、鹿児島の場合はそれを盛り上げる地域文化みたいなものも結構土壌にあるなと思っていたりします。みんな面白がるんですよね。新しい人が来るのも喜ぶし。
僕も鹿児島に10年前に帰ってきて仕事するようになって気を付けたのは、やっぱり椅子取りゲームにならないようにしようと思ったんです。既存の誰かの仕事を奪うようなことではなく、仕事を1から作るっていうことがやっぱり重要かなと。それが首都圏だと、要はパフォーマーが多いし、仕事も多いので、食い合いにはならなかったりしますけど、地方だとなかなか狭いですよね。そのあたりも気を使ったりはします。そういうときに、新しい仕事を作ろうとして始めると、割と応援する人が多い。おせっかいというか、面白がって集まってくる人が多いという感じがするので、そういうところは、鹿児島に特化して言えば面白いところかなと思ったりしますよね。
九法:そうですね。応援してくれる人は保守的な部分はあるかもしれないんですけど、新しいクリエイティブな芽みたいなものは、東京から見てても少し鹿児島も生まれつつあるなと。その中心になってるのは、実は坂口さんのところだったりするのかなとも思います。まさにそのデザインとかクリエイティブ力で、いろんな面白い飲食店やあるいは伝統産業が活性化したりとか、そういう動きができてくると、そういうところに牽引されて、いろんな人たちがまたやってくるっていう流れが生まれつつあるのかなと思いますね。
後編へ続く