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2021.03.28 (sun)
レポート
鹿児島×渋谷 クリエイティブシンポジオン<SESSION2>これからのローカルビジネスと働きかた(前編)
鹿児島×渋谷 クリエイティブシンポジオン
<SESSION2>これからのローカルビジネスと働きかた
鹿児島市は、新たな価値を想像するクリエイティブ産業の振興に力を入れています。2019年には「クリエイティブ産業創出拠点mark MEIZAN(マークメイザン)」が誕生。毎年「鹿児島デザインアワード」を開催するなど、クリエイターと企業をつなぐ事業を行っています。
今年1月23日(土)・24日(日)、鹿児島市のクリエイティブ産業をどのように盛り上げていけばよいか、そのヒントを探る「鹿児島×渋谷 クリエイティブ・シンポジオン」が開催されました。国内外で活躍する多彩なクリエイターの皆さんと、このmark MEIZANをリモートでつなぎ、ローカルシティにおけるクリエイティブの未来を語ったトークセッションのようすをご紹介します。
<SESSION2> これからのローカルビジネスと働きかた
▶︎トークテーマ1:コロナウイルスによって、ビジネスにおける都市と地方の役割はどう変化するか?
▶︎トークテーマ2:これから、どのようなローカルビジネスが生まれていくのか?
▶︎トークテーマ3:これからの都市と地方の働き方について
▶︎トークテーマ4:どんな条件が整ったら、鹿児島で働けるか?
▶︎質問コーナ 1:都市と地方にまたがって、副業・兼業できるような環境をつくるために必要なものは?
▶︎質問コーナー 2:行政と民間企業がよりよい関係を築きながら、連携して盛り上げていくには?
▶︎エンディングトーク/本日の感想とメッセージ
▶︎トークテーマ1
コロナウイルスによって、ビジネスにおける都市と地方の役割はどう変化するか?
オンラインという“第三極”が、地方ならではの可能性を広げる
九法:本日のテーマが「これからのローカルビジネスと働き方」という、まさにこのコロナ禍、去年から急にコロナウイルスが登場して一気に僕らを取り巻く環境とかビジネスのあり方、あるいは自分たちの働き方みたいなものが変わっていった、変わらざるを得なくなった、そんな状況かなと思います。
もともとコロナが来る前から、日本では東京の一極集中と言われ続けていて、千葉・埼玉・神奈川を含めると首都圏の人口 3000万人、約日本の30%超えと言われてきて、世界で類を見ないぐらい集中している状況。このコロナの状況で、いよいよ分散していこう、というところにきているのかなと。
昨日、「面白法人カヤック」の柳澤さんなどを迎えて、「クリエイティブシティのつくり方」というテーマでお話を伺いました。柳澤さんは移住促進のためのプラットフォームなどを運営されているのですが、実際に移住希望者が集中的に増えているというような話がありました。 都市一極集中で、物理的に集まった方が合理的・効率的だというところが、リモートワークの環境が整って、それに慣れてきて、おそらくこのコロナが明けた後も、商習慣・ビジネス習慣は元に戻ることはないんじゃないかなと、皆さん薄々思っている。 そうしたときに、都市でビジネスをやっていく必然はほとんどなくなってきているようにも思えます。ぜひそのあたり、都市あるいは地方でビジネスを行うのはどういうことなのか?ということを、皆さんに聞いていきたいなと思います。
家入さんは、福岡のご出身で最初は福岡で起業なさって、その後上京されて会社を起こして上場されている。福岡と東京でそれぞれ起業されているわけですけども、企業家としてどこで仕事をするのか、どこで起こしていくのか、そうした観点で、都市とか地方をどう捉えているのか、役割はどう変化しているのか、そのあたりいかがでしょうか?
家入:そうですね、一番最初 paperboy&co.という会社をつくったのは、福岡でまだ20代前半でした。東京に出たのは25歳のとき。最初から個人向けのレンタルサーバーとか、ショッピングカートのシステムなどのサービスを展開していました。正直、うまくいっていたので、東京に出る必然はなかったんです。ただ、より大きく攻めようと思ったとき に、資金調達であったり上場の可能性みたいなものを考え、東京に出て行く必要がありました。
クラウドファンディングをやっていて、すごく思うところでもありますが、やっぱり金融包摂という、例えば投資家であったり、または地銀、地域の金融機関みたいなものが、スタートアップへの対応が、まだまだ地方は弱い場所が正直ありました。なので、起業をするという側面において言うと、その観点から東京に行かざるを得なかったみたいなことがありました。だからこそ、クラウドファンディングを使ってくださる方もいたりするわけですけども。
でもそれはもう20年近く前の話なので、今では福岡だと市長も含めてスタートアップを応援していますし、随分と環境も整ったので、だいぶ状況は変わってきました。特に僕の場合はインターネットビジネスなので、別にどこでやろうがそこまで関係はなかったみたいなところはあるんですけどね。
九法:なるほど。資金調達とか金融包摂という言葉がありましたが、そこの部分が地方だと以前はなかなかできなかったと。それがまさに家入さんがされているクラウドファンディングの仕組みが出てきて、割とどこにいてもできるようになりつつあるんですかね。これからより、どんなところでもやっていける?
家入:そうですね。特に僕の場合は会社としての調達って話でしたけれど、ここ最近は個の時代であるというふうに言われます。スモールビジネスがこれだけさまざまな地域で立ち上がり始めてる中、さらに既存の金融機関ではどうしてもカバーできない領域のビジネスが増えてきているなと、思います。個人だからこそ与信だったり、実績が全くない中での立ち上げって基本的に地方の金融機関はなかなか融資とかも含めてできないですよね。
そういったところに対する金融包摂に、僕らのクラウドファンディングで全てうまくいくって言うつもりはなくて、1つの手段としてありますと言いたい。手段がどんどん増えていけば、個人になったりスモールチームで小さなビジネスを立ち上げるとき、インターネットも使うけども、地域のコミュニティの中でも使われていくようなものを提供していくビジネスは、可能性はすごくある気はしています。
九法:スモールビジネスがこれからもどんどん増えていく、今も増えつつあるというようなお話がありましたけれども、佐々木さんにその点は伺っていきたいです。
佐々木さんは、まさに D to C の話をなさっています。ご存知の方も多いと思いますが、Direct-to-Consumer の略で、リアルな店舗を持たずにインターネットを介して直接物を作って売るというようなブランドが、特に2010年代ぐらいからですかね、アメリカを中心に世界で広まっている。
そういう状況がある中で、佐々木さん自身いろんなビジネスのトレンドを見ている中で、これからの時代において、スモールビジネスやビジネスを展開していく上での、土地の持つ意味・役割みたいなものってどう変わっていくのか。結局、その土地やリアルな場所に関係なく物が売り買いできるとしたら、どこに行っても一緒じゃないか、という状況になると思うのですが、それでも場所の意味があるとしたら、どういうところにあるのか?そのあたりを、佐々木さんに教えてもらいたいと思います。
佐々木:今のお話にダイレクトな答えにならないかもしれないですが、ちょうど昨日、アメリカの話ではありますが面白いデータを見つけました。
「どこで起業したいですか?」という質問があって、全米でランクをつけると40%強ぐらいの人がサンフランシスコやベイエリア、シリコンバレー。そして15%ぐらいの人がニューヨーク、さらに15%がロサンゼルスという感じでした。それが2020年の数字なのですが、今年そのアンケートで1位になったのが、リモートか分散型オフィスっていうのが40%になったんですよね。
要はどこで起業したいかっていうときに、鹿児島とか東京とか、場所ではなくて、オンラインで起業したいっていうことが増えているんですよ。僕はこれがすごく面白いなと思って。都市と地方の二元論ではなく、それをある種オーバーライドするかたちで、オンラインという選択が出てきた。オンライン空間の中には、まさに今日のようなかたちで、鹿児島から入っている人もいれば、東京から入っている人もいる。こういう活動の延長線上に、何かオンラインで起業するみたいな話があると思うんですけど。それはすごく可能性を感じます。今まである種、都市と地方って、ヒエラルキーとして語られることが多かったと思うんですけれども、こういうツールのおかげで、そのヒエラルキーが抜かされるってすごく面白いと思っています。
あと、家入さんがおっしゃった通り資金調達の点で、やはり東京の方が有利みたいなことがこれまでありました。ダイバーシティとかインクルージョンの観点で言ってもそうです。例えばアメリカでは、シリコンバレーでは、投資家も投資を受ける人も白人男性が多くて、ほとんど女性がいない…そういう状況だったのが、 オンラインで交わされることによって、いろんな人がそこに参加しやすくなって、投資する際でも、受ける際でも、ダイバーシティが広がっていくみたいなところがあって、すごく可能性を感じています。
土地が持つ意味とか価値みたいなところは、このオンラインという第三の極が生まれたことによって、 いろんなミックスが生まれて、これから面白くなっていきそうかなっていうのが、今考えていることですね。
九法:なるほど。まさにその、都市と地方という二元論で語るのが、もはやもうナンセンスなんじゃないかなと。そこにリモートで働く・起業するっていう選択をする人たちがアメリカに出てきているというデータを交えた非常に面白い話ですね。
横石さんは働き方おじさん?お兄さん?(笑)、働き方の専門家ですが、自身は & Co. という会社を経営されていて、手伝ってくださる人はいるけれども、基本ピンで活動されているわけですよね。東京に拠点を今置かれてると思いますが、それってなぜ東京なんですか?意味みたいなものあったら教えてください。
横石:そうですね。僕の場合は… “オーシャンズ11 型”っていうと、おじさんと言われそうなんなんですけど(笑)それぞれのエキスパートとか専門家と一緒に集まって、コレクティブにプロジェクトに臨むことが多いです。
あまり場所は関係なくて、ウェブサイトを作るときは、例えばロスにいるデザイナーにお願いするのは、クオリティはもちろんいいとして、夜中に連絡をしておいて、朝自分が起きたら、デザインができていたりするんです。その時差もうまく使いながらチームで働くみたいなことは、結構力を入れています。僕が東京にいる積極的な理由って実はないんですよね。家族がいて、子どもの幼稚園があって…とかが、ちょっと離れづらい理由かな。必ず東京じゃないと駄目かと聞かれると、そんな感じでもないです。
九法:コレクティブな働き方をするってお話がありましたが、リアルで会って繋がっていくのが前提だったのが、今はそうじゃなくて。もう最初からオンラインみたいなものもありうる中で、 よりコレクティブに集まりやすくなっている、精神的にも繋がりやすくなっているっていうところはあるんでしょうか?
横石:あると思います。今日は、佐々木さんも家入さんも我々初めまして、ですよね。おそらく、お互い知ってそうで知り合えなかった。これもやっぱりインターネットならではっていうか。
それは、九法さんの中にタグがあって、このテーマで、こういうタグの人たちを集めたら面白いんじゃないかっていう、いわば編集されて、このメンバーが揃ってると思うんですけど。こういうことがインターネット上だと起こりやすいと思うんです。だから、「ランサーズ」や「クラウドワークス」とか、いわゆるクラウドサービスと言われているプラットフォームは、その専門性と人と仕事の出会いの場ですよね。そういったプラットフォームがたくさん生まれてきています。
九法:元々コロナ以前もインターネットで交流するみたいなことは当然あったけど、より機会が増えていて、何か心理的なハードルみたいなものかどんどん下がっているっていうところはやっぱりあるだろうなと、今のお話を聞いて改めて思うところです。
坂口さん、昨日それこそ、物理的な距離と精神的な距離みたいなお話をされてたのがすごく印象的でした。要するに、坂口さんは鹿児島と東京を行ったり来たりしながらビジネスをしていて、東京にいるときは、鹿児島は物理的に遠いんだけど、自分の故郷でもあるから精神的な距離が近いと。一方で池袋とかは東京にいながら、めちゃめちゃ遠く感じるみたいな話がありました。それって何かすごい面白いなと思ったんです。
物理的な距離・精神的な距離という話。 これまでも東京と鹿児島を行ったり来たりされてきたと思いますが、今コロナで物理的に移動が制限される中、鹿児島にいながら東京の仕事を受けることも可能になってきてますね。仕事をする場所としての都市と地方をそれぞれどういうふうに使い分けられてきたのか、これからどうされるのか、伺ってもよろしいですか?
坂口:僕は、2拠点を行ったり来たりっていう生活を10年以上しています。コロナになって完全にそれは変わったなと思っていて。どう変わったのか何かモヤモヤ考えてたんですけど、さっき佐々木さんの第三極の話が面白いなと思いました。
まさにそうなんですよ。もう1つの空間ができた感じがあって、僕らの会社も売り上げというと東京の方が大きかったりするんですけど、東京の仕事はもう完全にリモートなんです。東京にいても来ないでくれって言われるので、自宅でリモー ト。そうすると、別に東京にいる必要ないなって、ここ1年ぐらい思い始めてます。
仕事の住環境的な面も地方は圧倒的に優れているんです。1/3の賃料で5倍以上の広さのオフィス。当たり前かもですが、ゆったりしているし快適だなと思って、仕事の場がその第三極のオンラインの上に移ったことで、どちらでも良いのであれば、鹿児島でいいやって思ってるところはあります。
もともと僕がこの2拠点でやっていけるかもって思ったのは、アメリカの友人をみてでした。やっぱりミュージシャンは、日本だとみんな東京に行かないと活動できないみたいな風潮があったと思うんですけど、海外では地方都市に住んでいて、世界的に活躍している人って結構多い。そんな生き方、暮らし方って素敵だなと思っていました。 そうしてるうちに例えば、ポートランドの Wieden +Kennedy みたいなクリエイティブエージェンシーが世界中のアップルのCM、ナイキのCMなどを作っているっていうのも出てきて。こういうあり方っていいなぁと、思ってました。暮らしやすい鹿児島にいて、仕事の空間は第三極っていうのが、僕にとってはそれがすごくフィットしてる感じです。だから本当に鹿児島と東京の2つがあるけど、それ以外にも仕事はあって。東京は確かにネットワークとか、仕事のハブではあるんだけど、相対的な位置がフラットになってきたなって、そんな感じはしてます。
中編に続く