mark MEIZAN Conference “Mix” vol.1 ④起業家・経営者×エンジニア×クリエイター GMOペパボの事例から学ぶ「デザイン組織がもたらした良い影響」
2024年2月8日に、mark MEIZAN Conference “Mix” vol.1を開催。
本イベント4番目のセッションでは、ハンドメイドマーケット「minne」やレンタルサーバー「ロリポップ!」、ECサイト構築サービス「カラーミーショップ」など様々なインターネットサービスを提供しているGMOペパボ株式会社 代表取締役社長 佐藤 健太郎氏、執行取締役CDO 小久保 浩大郎氏をゲストにお迎えし、East Ventures フェロー 大柴 貴紀氏がモデレーターを務めました。
佐藤氏は有限会社paperboy&co.(現GMOペパボ株式会社)創業メンバーとして参画し、2009年に代表取締役社長に就任されています。
小久保氏はフロントエンドデベロッパー、インターフェイスデザイナー、インフォメーションアーキテクトとしていくつかのデザインファームでキャリアを積み、Google、CAMPFIRE を経て、現在、GMOペパボ執行役員CDOとしてデザイン全体の責任者を担っています。
本セッションでは、起業家、経営者、エンジニア、そしてクリエイターとしての視点や経験について、貴重なお話を伺いました。
左から佐藤 健太郎氏、小久保 浩大郎氏、大柴 貴紀氏
当初のペパボの課題
佐藤氏は、「エンジニア組織はCTOが入り、全体的な技術の方向性やキャリアパスが言語化できるようになっていたが、デザイン組織にはまだそのような仕組みがなかったため、同様に言語化していかなければいけないという課題があった」と述べられました。「デザイナーの評価制度も少しずつ出来上がっている最中で、そこを引っ張れる人が必要だと感じ、小久保氏に声をかけた」とのこと。小久保氏は、当時のことを振り返り、デザイン組織を良い感じにして、ペパボのデザインっていいなと思ってもらえるようにしてほしいというざっくりした究極のオーダーをされた。GMOペパボは1人1人の技能はとても素晴らしいものがあったが、それが組織化されて大きな力を発揮するという形にはなっていなかった。当時、その状況を聞いて、まさに自分がやりたかった『チームや組織でのデザインが出来そうだ』と思い、ペパボのCDOをお受けした」と述べられました。
CDO(Chief Design Officer)の役割
小久保氏は、CDO(Chief Design Officer)としてのご自身の役割について「経営側の課題を対話の中でしっかり詳細化することや定義すること」と述べられました。
佐藤氏に言われた「良い感じ」については、「良い感じのサービスというのは個々のプロダクト、サービス、コミュニケーションのデザインがよく出来ていて、ユーザーや市場から本当にペパボのサービスは良いと思ってもらえるる状態であること」とし、そのためにあるべき状態とはどういう状態なのかを作ってていったと語られました。
実際に課題を解決するために行ったことを具体的にお聞きしました。
一緒に働くデザイナーを仲間にする
小久保氏は「パラシュート人事の懸念点は自覚していた。周りの人とコミュニケーションをとり、早く自分を仲間だと思ってもらう必要があると考えた。まずは、現場のデザイナーの信頼を得ることが大切。当時40人ほどいたデザイナー全員と面談をして、一緒に働くメンバーのことを知ること、自分のことを知ってもらうことから始めた」と述べられました。面談では「自分のやりたいことと現在会社でやっている業務はどれくらい重なっているのか」など社員の考えを吸い上げて課題を見つけ出していった結果、社員一人一人からの信頼に繋げられたと語られました。
シニアデザイナーの役割の確立
小久保氏は「シニアデザイナーとはデザイン業界の中で一目置かれる存在である。しかし、ペパボのシニアデザイナーはそこまでの自覚を持っていなかった。評価制度が固まる前に、早い段階でペパボのシニアデザイナーの在り方というのを定義した。」と述べられました。定義するにあたって「いきなりジョインした自分に周りのみんながついてきてくれるのか」という不安もあったと話す小久保氏。実際にシニアメンバーと話し、「リーダーシップ・改善思考・専門性・コラボレーション・サービス愛」の5つを前提にしてシニアの方達に活躍してほしいと伝えた。その理由などもお伝えしたことで「自分たちはこのようにならないといけないんだ。」と応えてくれ、シニアデザイナーの立ち位置が決まったとのこと。現在はデザイナーの肩書が増えて、デザインリードやシニアデザインリードなど事業部でデザインチームのマネジメントを行なうポジションも確立したと述べられました。
GMOペパボのデザイン組織について
GMOペパボは執行役員CDOに小久保氏、副社長もデザイナー出身という極めて珍しいケースだと大柴氏が述べられました。
佐藤氏が述べた「人は皆、自分の人生をデザインしているデザイナーである」。この言葉は、ペパボの核心を象徴する言葉であり、小久保氏は「クリエイティブな人々の表現を支援することが何よりも大切だ」ということを示していると語られました。小久保氏は、その具体的な例としてminneを挙げ、「ハンドメイドは自分の人生をデザインする一部であり、日々の料理やハンドメイドを購入して生活に取り入れるということも含め、人は自らの生活の一部を意図を持って変えているという意味では、正にデザインしている。ペパボの各サービスもそれぞれが異なる事業として独立しているように見えるかもしれないが、実際には全部、共通の価値観を持っていると思っている。」と語られました。
小久保氏は、ペパボの歴史を振り返りながら、数々の試練を経て生き残ってきたブランドの重要性を強調しました。そして、各サービスのブランドの統一だけでなく、その意義を活かすことの重要性を述べました。
佐藤氏は「デザイン組織によって属人性が減少していると感じており、方向性の言語化とデザイン経営の考え方ができるようになった。また、デザインシステムの導入で、事業部制をとっていても統一性の確保ができるようになった。新規事業もデザインシステムを使って生産性高く取り組めるようになり、ブランドとして統一化された。」と述べられました。
エンジニアとデザイナーの理想の相互関係
小久保氏は「デザイナーの立場として、背中を預けられる同じポジションのエンジニアがいることが大切だと思っている。ペパボにはCTOという素晴らしいバディがいて、完全に信頼して任せられる存在がいることがとても重要だった。」と語られました。
また、エンジニアとデザイナーが円滑なコミュニケーションをとるためには、お互いの領域に踏み込み、相互理解を深めることが重要であることを教えていただきました。小久保氏は「共通言語を理解することで、デザイナーとエンジニアの間でのコミュニケーションがスムーズになる。」と述べ、デザイナーがエンジニアリング、エンジニアがデザインの理解をしようとする姿勢がチーム全体の協力と創造性を高めるのに不可欠であると感じられました。
デザイン経営とは
小久保氏は様々な職務の幹部もデザイン思考を行使していることを強調。
「形を作ることもデザインであるが、物事をうまく組み合わせたり、形作ることも抽象的なデザインの話になってくると思っている。デザイナー出身の人だからできるデザインの話をしているわけではなく、いろんな職務の幹部の方たちもそれぞれの職務における適切な判断、意思決定であったりという、いわゆるデザイン思考を行っている。」と述べられました。
佐藤氏は「『エンジニアだとパフォーマンスがこのように上がる』とか、『こっちの方が早くなる』などの具体的な例があるが、デザインの場合は抽象的な選択肢になる。そういう意味でのデザイン思考をしっかり言語化して、平準化してみんなで取り組んでいくことが必要になってくると思う。」語られました。
最後に
質疑応答の時間では、デザインに関する質問にとどまらず、プロジェクトの成功に欠かせない要素であるデザイナーと他の業種とのコミュニケーションの重要性にも焦点が当てられ、参加者たちの興味を引くような話題が多くありました。「人は皆、自分の人生をデザインしているデザイナーである」という言葉が、参加者の心に響いた印象でした。
登壇いただいた佐藤氏、小久保氏、大柴氏、そしてご参加いただいた皆様に心から感謝申し上げます。
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