薩摩スタートアップ交流会!

2025年11月7日、「薩摩スタートアップ交流会」を開催しました。「薩摩スタートアップ」とは、一般的なスタートアップとは少し異なります。これは、mark MEIZAN独自に定義したもので、スタートアップ企業の中でも「明確な成長志向を有し、既存のビジネスモデルをベースに収益を高める工夫等により、全国展開などのスケールの拡大を図ることで、安定的な成長と事業の拡大を目指す企業」のことを指します。今回はそんな「薩摩スタートアップ」の代表を務める7名の方にご登壇いただき、それぞれの企業の事業やビジョンについてお話しいただきました。
先輩起業家が一堂に会する貴重な機会に、金融や医療、教育、ITなど、多様な業種の幅広い年代の方々がお集まりくださいました。

株式会社シトラスパレット 代表取締役 池元 航 氏

鹿児島県出水市長島町獅子島の柑橘農家に生まれた池元氏。学生時代に果樹栽培を学び、東京・築地で果物の競り人として全国の生産者と出会い、その技術を吸収しました。地元へ戻って独自の栽培を実践したところ高品質な果実の生産に成功。その過程を科学的根拠とともにSNSで発信したことから農家や投資家、大学とのつながりが広がり、栽培コンサル事業を始め、2024年12月にシトラスパレットを設立しました。

同社は農家へ無料で栽培コンサルティングを提供し、収穫物を現物で受け取る独自モデルを採用。農家は費用負担なく高度な技術を得られる上、市場より高値での買取が期待でき、双方の成長につながる仕組みとなっています。研究にも力を入れており、独自肥料により糖度向上、病害や気象への強さ、収穫量の増加を同時に実現。自社に大規模な試験圃場を持たないファブレス企業であり、生産者とのOEM事業として協働し、品質特化と設備投資支援を強みにしています。2024年には出水市で全国の農家に対するイベントを開催。地方でありながらも約100名が集まりました。こうしたイベントも行いながら全国の農家とのネットワークを広げ、農家への還元率の高い企業として事業を継続させ、栽培技術の普及と農家の所得向上を目指しています。

LINK SPIRITS株式会社 代表取締役 冨永 咲 氏

LINK SPIRITS株式会社は2022年創業、焼酎の商品開発から販売までを行う会社です。代表の冨永氏は、もともと焼酎が苦手だったものの、「安田」という焼酎に出会い、そのライチのような香りに衝撃を受けます。それ以来、県内外60以上の蔵を巡りながら蔵ごとの魅力や歴史、造り手の思いに触れ、焼酎の可能性を感じたといいます。「”文化としての焼酎”を継承するために、蔵の個性を活かした”嗜好品としての市場を創造する”」ことをミッションに掲げ、国内市場の縮小や価格評価の低さといった焼酎市場における課題の解決に挑んでいます。一方で、海外には未開拓の伸びしろが大きく、グローバル展開も視野に入れています。

事業は三つの商品軸で展開する。紫芋由来の天然色素でピンク色に仕上げ、焼酎のイメージを覆す「NANAIRO-七色-」、日本で唯一の職人が造る木樽蒸留器で蒸留した「音環-OTOWA-No.01」、蔵に眠る長期熟成酒に価値を見出した「秘蔵の熟成焼酎-GEM SPIRITS-」を中心にラインナップを構築しています。さらに、ふるさと納税での焼酎づくり体験企画など体験型の取り組みも行っています。今後は海外市場の開拓や、事業承継を見据えた酒蔵との提携強化を目指しています。

株式会社ユニマル 代表取締役 今熊 真也 氏

2013年創業の株式会社ユニマルは、「リアルなAIを現場に定着させ、成果を出す」ことを理念に事業を展開しています。AIが身近になった一方で信頼性の不足や“AIらしさ”が目立つケースも多い中、同社は、チームの一員として働き、対話を通じて進化し続けるAIを「リアルなAI」と定義し、その実現にこだわっています。

事業は自社プロダクトと受託開発の二軸で構成されています。自社プロダクトでは、WEB運用を仕組み化する「Snapup」、EC商品ページをAIが分析・最適化する「Spearly AI」を展開しています。また、開発中のものとして、流入から購入までを横断的にサポートし、全部AIで回すことを目的とした「Urumiru」、WEB制作現場にAI人材を投入する「Workbench」があります。Workbenchは海外イベントでも注目を集めています。
一方の受託開発では、日本最大級のプラットフォームの支援などを行っています。働く人や業務に合わせるリアルなAIの導入はかなり大変な作業ですが、それを独自にパッケージ化して導入するサービスも準備中です。プロダクトと受託の両軸を強みに、マーケティングAIでトップを目指し、すべての企業をAI企業にすることを目標に掲げています。楽しみながら挑戦する姿勢があるからこそ世界に届くプロダクトが生まれるという信念のもと、鹿児島から世界へ発信するプロダクト創出を目指しています。

株式会社ZIFISH 代表取締役 江幡 恵吾 氏

株式会社ZIFISHは、鹿児島大学水産学部准教授の江幡氏が2025年1月に創業した鹿児島大学発ベンチャーの認定を受けている会社です。社名は地元の魚=地魚を意味します。江幡氏は漁獲方法や鮮度管理の研究をしながら現場を見る中で、魚がなくなっていくかもしれないという危機を感じたといいます。

水産業には様々な課題がある中で、特に労働力不足が深刻な課題となっています。漁協では少ない労働力の中で、入札や計量、データ入力が紙中心で時間がかかる現状がありました。そこで、計量機と写真撮影を組み合わせ、データをクラウド上で共有するシステムを開発。漁協の業務効率化や職員の休憩確保に寄与するとともに、漁師や仲買人がリアルタイムでデータを活用できる水産物情報プラットフォームの構築による水産業自体の発展も目指しています。例えば、漁師が過去の漁獲記録を把握できる、仲買人がいち早く魚市場の情報を入手でき顧客と早く交渉できる、などの活用方法があります。さらに、気候変動に対応した資源管理にも活用可能です。このシステムは農林水産省SBIR事業の補助を受けて試作品が完成しており、実用化に向けて全国の漁協への導入やオンライン取引の実現に向けて準備を進めています。今後は、東南アジアでの資源管理プロジェクトなど、グローバルに展開していく予定です。100年先の食卓にもおいしい地元の魚が届くような世界を築くことを目指して日々取り組んでいます。

株式会社オービジョン 代表取締役 大薗 順士 氏

2021年9月創業の株式会社オービジョン。鹿児島に特化した食の販売プラットフォーム「かごしまぐるり」を運営し、「鹿児島の生産者の明るい未来を作り出す」を理念に、鹿児島の一次産業の魅力発信に取り組んでいます。
鹿児島は農業産出額が全国2位と食資源に恵まれる一方、生産農業所得率は全国最下位で、高齢化や担い手不足が課題です。その背景には鹿児島の食の認知不足があり、多忙な生産者がPRに手が回らない現状があります。同社は生産者と連携し、産地直送のビジネスモデルを確立。ただ商品を売るだけではなく、生産者の想いをストーリーにのせて付加価値のある商品を展開することで所得向上を実現していくことを、コンセプトに掲げています。


同社の特徴は、生産者にはものづくりに集中してもらい、販路開拓やページ制作、購買データの分析からプロモーションまですべてを担っていること。産地直送の仕組みもすべてシステム化し、生産者に負担がかからないよう徹底されています。さらに、鹿児島ブランドを統一して届けるクリエイティブ力も強みです。ECの他にも、海外シェフを招いた鹿児島の農場の視察や輸出、生産者とのオフラインイベントでの商品PR、メディアコンテンツの発信、次世代に向けた食育イベントの開催など、幅広く鹿児島の食の魅力を伝える活動を行っています。最近はオープンイノベーションにも力を入れていて、金融機関や教育機関との連携、物流を使った新幹線輸送といった取り組みも進めています。社会課題と経済を両立しながら鹿児島の生産者の明るい未来を実現していくことを目指しています。

Buddycare株式会社 代表取締役 原田 和寿 氏

Buddycare株式会社は、犬のヘルスケアを改善するために5年前に設立されました。「すべての愛犬が一日でも長く健康に暮らせる社会を実現する」というミッションにこだわりを持って取り組んでいます。また、「すべての判断は愛犬のために」というクレドを掲げ、収益よりも犬のヘルスケアを優先する姿勢を貫いています。

同社が目指すのは、生活習慣病が主な死因である犬の予防医療の確立です。しかし正しい健康管理の情報は蓄積されていない実態があります。その解決のために健康管理データの収集と分析に基づくソリューション開発を進めています。提供する「Buddy FOOD」「Buddy TREATs」「Buddy DEVICE(開発中)」「Buddy LOG」を通して多様なデータを蓄積することで次のソリューションを開発し、最終的にはデータ分析を通じて予防医療を確立していく、というアプローチをとっています。すでに1頭の時系列データを活用した予防プログラムの提供が可能になっています。主力事業の「Buddy FOOD」は、法律上は雑貨扱いであるペットフードを、食品基準で製造し、安全性を徹底したフレッシュフード。雑食である犬のごはんに必要な肉・魚・野菜すべてを安定的に調達できる鹿児島は、愛犬のごはんづくりの場所として最適だといいます。販売面では、自社ECや楽天などのオンラインに加え、フレッシュフードのカテゴリーとしては唯一全国1,400の動物病院とも提携し、そのポジションを確立しています。品質に厳しいといわれる生協グループでの取り扱いも今期からスタート。東南アジアや米国への海外展開も進行中です。

株式会社fab 代表取締役 星原 優 氏

社労士事務所に入所し、その後飲食事業の展開やDX・AIの導入支援等を行ってきた星原氏。社労士事務所で働きながらマーケットやブランディングに興味を持ち、ガトーショコラに特化したお店「ponoカフェ」を始めました。霧島に2店舗目を出したものの失敗に終わりました。
「事業をつくるのが好き」という星原氏。この3年間で動画事業や飲食業など10以上の事業に挑戦。その中で、既存サービスを把握しておらず撤退を経験したこともありました。また、地元・日置に新しい可能性を作ろうとの思いから、個人で始めたローカルビジネス「戦国ハロウィン」は、多くの困難と反省がありながらも新しい人とのつながりが広がったいいイベントだったと振り返ります。星原氏は自身を「とりあえず行動する派」と語りました。

株式会社fabとしては現在、感情を可視化し、組織を強くするハイブリット型メンタリング支援サービス「ココログラフ」を開発中です。うつ病や適応障害による労働損失額が年間4.5兆円という社会課題に向き合い、それを解決し得るプロダクトを生み出すことを目指しています。また、並行して進めている「工事日報DX」は、工事会社で従来手書きで行われてきた日報業務をDX化しようとするプロダクトです。「現場の情報を現場で完結し、リアルタイムで社内共有する」ことをコンセプトに掲げており、現場からの強いニーズも受けながらプロダクトを磨いている段階です。

「起業」で活気あふれる鹿児島を

後半は、参加者からの質問にお答えいただきました。起業に踏み出すための準備や、事業の運営資金など、地方で起業するロールモデルを前にした現実的な質問が多く寄せられました。また、「今後の鹿児島に期待すること・自分の長期的な展望」についての質問には、その場にいた登壇者全員にご回答いただきました。登壇者の皆さんには共通して、自分たちの事業によって課題を解決し、自ら鹿児島を盛り上げていくという力強い意志が感じられました。同時に、鹿児島の未来が活気に満ち、明るく健やかなものであるようにと願う、熱い想いも伝わってきました。

ここから起業家への一歩を!

講演終了後は、名刺交換の時間となりました。行政関係者や民間起業の方、学生など多様な立場の参加者が集まる中、登壇者も加わってあちらこちらで名刺交換が行われ、活発な交流の場となりました。この場から未来の起業家の誕生や、新たな協業への発展が期待されます!

mark MEIZANではスペシャリストによる起業や経営に関する相談支援も行っています。事業の運営資金を含め、起業までの準備など、幅広いご相談にご活用できます。今後もこのようなイベントや相談支援を通じて、新しいビジネスアイデアや協業のきっかけが生まれる場を提供していきます。12月には、動画制作に関するクリエイティブセミナーや、中小企業の海外展開のヒントが得られるセミナーも開催予定です。ぜひみなさんもmark MEIZANに足を運んでみてください!