投資家から見た地域スタートアップの魅力とは?

資金調達額や起業数などが都市部に集中しているスタートアップ業界。地域でスタートアップに挑戦する意味とは。地方発の事業はどのように成長していけるのか。

2026年6月4日、mark MEIZANで開催された今回のイベントでは、株式会社MTG Ventures代表パートナー兼地域と人と未来株式会社 代表取締役である伊藤仁成氏をゲストに迎え、地域スタートアップの可能性や資金調達、地域企業との連携について語っていただきました。また、地域企業の立場からの視点として、日本ガス株式会社 取締役 総合企画グループ長の宮元龍一氏にもご登壇いただき、地域企業がスタートアップに期待することや、新規事業への取り組みについてお話しいただきました。

当日は梅雨空の中、経営者や起業を目指す方、支援機関などが集まり、地域で挑戦する意義や可能性について考える時間となりました。

なぜ地域スタートアップに投資するのか

伊藤氏が代表パートナーを務める株式会社MTG Venturesは、美容ブランド「ReFa」などを展開するMTGグループから生まれたベンチャーキャピタルです。さらに伊藤氏は、2022年にMTGとは別に、地域の課題を解決する起業家を支援するファンド「Central Japan Seed Fund(CJS)」を設立し、全国各地のスタートアップへの投資と支援を行っています。

地域には人口減少や高齢化、人材不足など、日本全体が将来的に直面する課題が先行して存在しています。そうした課題を解決しようと挑戦する起業家を支援したいという想いから、CJSは誕生しました。投資先は物流、農業、教育、人材、ディープテックなど幅広く、課題解決を軸に投資を行っていることが紹介されました。

中垣氏からは「なぜ効率がいい東京ではなく、あえて地域のスタートアップに投資するのか」という問いが投げかけられました。これに対し伊藤氏は、「まず前提として地域にチャンスがあると思っている」と回答。その理由として、強い起業家が生まれるパターンを3つ紹介しました。大学発スタートアップ、地域産業発スタートアップ、そして移住者など外部人材による突然変異型の起業です。実際に全国各地を訪れる中でそうした起業家との出会いが多くあり、地域の可能性を実感していると語りました。

IPOだけではない、スタートアップの成長のかたち

中盤、伊藤氏が考えるスタートアップの成長戦略について語られました。

中垣氏は、鹿児島の強みである一次産業を担う企業が上場を目指す際の厳しさについて触れます。多くの投資家は急成長が見込める企業を求めるため、緩やかな成長を前提とする企業への投資は難しいのではないかという問いに対し、伊藤氏は「IPO(新規公開株式)だけが正解だとは思っていない」と話しました。

近年は上場基準の厳格化により、IPOのハードルが上がっており、M&A(企業合併・買収)を含めた多様な出口戦略を考えることが重要になっています。地域スタートアップにおいては、急成長やIPOだけを目指すのではなく、地域課題の解決や持続的な事業成長を実現することも重要な価値です。「起業家自身が目指すゴールが何なのかを大切にするべきであり、IPOはあくまで選択肢のひとつ」という伊藤氏の考え方は、起業のあり方を改めて考えさせられる印象的なメッセージでした。

続けて伊藤氏は、人手不足や一次産業の担い手不足、医療、福祉、エネルギーといった課題は地域にこそあり、こうした社会基盤に関わるテーマは今後大きな事業機会につながる可能性があると指摘します。また、そうした課題に対し、起業家とともにチャレンジできることに面白さを感じていると語ります。話題はさらに、伊藤氏が考える鹿児島のスタートアップ戦略へと発展しました。

一方で中垣氏からは、一次産業分野へ投資する際の収益化や成長性に関する現実的な課題も提示されました。それに対し伊藤氏は、地域課題に対応するための新たな金融の仕組みや資金循環のあり方についても言及。地域課題の解決には事業だけでなく、資金の流れそのものを変えていく必要があるという視点も示されました。

地域企業が挑む新たな価値創出

後半は、日本ガス株式会社の宮元氏を迎え、地域企業の立場からスタートアップとの連携について語っていただきました。

創業100年を超える地域インフラ企業である日本ガス株式会社は、ガス事業に加え、電力や生活サービス、スポーツクラブ事業などへ領域を広げながら、新たな価値創出に挑戦しています。そのなかでCJSへの出資を決めた背景には、「今の事業だけに依存していては、20年後、30年後に成長し続けることは難しいのではないか」という危機感があったといいます。

さらに宮元氏は、「鹿児島で生まれ、育ててもらった企業であり、鹿児島のインフラを支える企業だからこそ、鹿児島の発展に貢献したい」と語りました。出資の目的は単なる投資収益ではなく、スタートアップとの共創や新規事業創出の知見獲得、そして地域課題の解決に取り組む企業とのネットワーク形成など、多面的な価値を期待しているといいます。

地域を代表する企業でありながら、現状に甘んじることなく先を見据えて新たな挑戦を続ける姿勢は、変化の激しい時代における企業のあり方を考えるうえで、参加者に多くの示唆を与えるものでした。

地域課題から広がる事業の可能性

セッション終盤では、伊藤氏、宮元氏、中垣氏が考える地域スタートアップの勝ち筋について語っていただきました。

三者の話に共通していたのは、地域にある課題やリソースを出発点にしながら、その価値を地域の外に広げていくという視点でした。中垣氏は「地域には本質的な課題が残っている」と語ります。重要なのは、それらを鹿児島だけの課題と捉えるのではなく、全国にも共通する課題として再定義することです。鹿児島が抱えている課題に敏感になり、それに対するソリューションを全国や海外へ展開していく視点を持つことで、大きな事業機会につながる可能性があります。

参加者にとっても、「地域だから不利」という固定観念にとらわれず、「地域だからこそチャンスがある」という視点は、地域で挑戦する意義を考えるきっかけになったのではないでしょうか。

地域で挑戦する起業家へのメッセージ

トークセッションの後は参加者からの質問にお答えいただきました。

「民間のファンドの方とつながるためにはどうしたらよいか」「具体的にどのようなプログラムで支援しているのか」「事業を進める中で突き当たっている課題に対する解決の切り口は?」など、経営者や支援機関の方々から、それぞれの立場ならではの質問が寄せられました。

その中で、「地域で起業する際に必要な考え方は何か」という質問に対し、伊藤氏は「地域だから資金調達できないというのは言い訳にならない」と率直に語ります。実際に地域からでも資金調達に成功している起業家は存在しており、環境を嘆くのではなく、自らの活動を省みて、学び続けながら行動する姿勢が大切だといいます。一方で、地域には支援者との距離が近いことや、挑戦する人が埋もれにくいことなど、都市部にはないメリットもあります。そうした地域ならではの環境を活かしながら挑戦を続けてほしいと、参加者へエールが送られました。

mark MEIZANで新たな挑戦のきっかけを!

今回のイベントでは、地域スタートアップの可能性について、投資家と地域企業の双方の視点から多くの示唆が共有されました。

地域には様々な課題があります。しかし、その課題こそが新しい事業の種であり、未来の価値創出の可能性でもあります。鹿児島には一次産業や離島、宇宙関連産業など全国的にも特徴的な資源と課題が存在しており、それらを掛け合わせることで、新たな価値を生み出せる余地が大いにあることを感じる時間となりました。

mark MEIZANでは今後も、起業家やスタートアップ、地域企業がつながり、新たな挑戦が生まれる機会を創出してまいります。イベントへの参加は新たな知見が得られるだけではなく、同じ課題を共有できる仲間や支援者と出会うチャンスにもなります。また、起業や経営、資金調達、新規事業に関する相談も受け付けています。アイデアを形にしたい方や、新たな一歩を踏み出したい方は、ぜひお気軽にmark MEIZANをご活用ください!