Tech Beach Meetup vol.20 ~各企業のAI活用事例パネルディスカッション~
2022年末のChatGPT登場以降、生成AIは単なる会話ツールから自律的にタスクをこなす「AIエージェント」へと進化し、エンジニアのみならず全職種へ劇的な業務効率化をもたらしています。一方で、AIの普及に伴うセキュリティリスクや「エンジニアの役割の再定義」といった新たな課題も浮き彫りになってきました。
このような激変する時代背景のなか、「現場のリアルなAI活用事例」と「これからのキャリア像」について、現場を担うエンジニアが集い意見交換をする場として、2026年7月10日、「Tech Beach Meetup vol.20」がmark MEIZANで開催されました。
世の中には多くのAIツールや成功事例が溢れていますが、セキュリティの壁、コスト管理、社内教育、そして「エンジニア不要論」への懸念など、現場での悩みは尽きません。今回は鹿児島や日本の都市部を拠点に第一線で活躍する4名のパネリスト
- 株式会社現場サポート 常務取締役 開発本部長 川畑 勇喜 氏 氏
- 株式会社Village AI 代表取締役 里 洋平 氏
- GMOペパボ株式会社 事業開発部 エンジニアリングリード 吉本 康貴 氏
- 株式会社ユニマル 執行役員 VPoE 吉永 満太郎 氏
をお招きし、モデレーターの株式会社WIZ代表取締役 松岡 宏満 氏の進行のもと熱いディスカッションが行われました。

テーマ①【現在使用しているコーディングエージェント】
最初のトピックは、開発時や業務時にメインで活用しているツールについて。それぞれの活用方法も交えてお話いただきました。
「個人的に最近はエンジニアとしてコードを書いていない」と前置きし、「基本的にClaude Codeを利用し、会社運営・経営をAI社員に任せている」と話すのは株式会社Village AIの里氏。財務部、経営戦略部といった各部署を作りそこにAI社員を作り、それを束ねる司令塔に指示を出せばAI社員同士で業務をこなしてくれる仕組みをつくったと語ります。
一方、株式会社現場サポートの川畑氏は、実は会社としてはと他社と比べてそこまでAI活用が進んでいるというわけではなく、これまで業務でのAI活用に関しては個人に委ねていたのだそう。しかし、それではあまり社内でAI活用が浸透せず、組織内でのAI活用のバラつきがあったということから、今季からトップダウンで全社一斉にClaudeのチームプランを導入したと話します。
GMOペパボ株式会社の吉本 氏は、会社はClaude Codeの利用を推奨しているが、自身の部署が事業開発部ということもあり様々なAIを実験的に活用し、試してみるということが大義名分だと語ります。業務での利用や個人での利用、利用の目的(コーディング、諸業務等)によって活用するAIエージェントも変わるとし、業務ではClaude CodeとCodex、個人ではOpenCrawやHermes Agentなどを試していると話します。
また、株式会社ユニマルの吉永 氏は、会社がAI活用の助成金や補助金を利用して契約をしているClaude Codeをメインに活用していると話します。またその理由として、チームでの作業を考えたときにClaude Codeは業界標準になってきているということを挙げます。作成したスキルはレポジトリに挙げてしっかり共有することを徹底しているとも話します。
テーマ②【生成AIを組み込んだ最新の開発フロー】
爆発的な量のコードが生成される時代において、各社はどのようなプロセスを組んでいるのでしょうか。
里氏は「作るAI」と「チェックするAI」を明確に分けるワークフローを自作。「AIが生成したものを、別のAIがファクトチェックやロジック検証にかけ、最終成果物だけを人間が確認する」という徹底した自動化により、自身はほとんど実務をせず経営に集中できているという驚きの事例を共有しました。
また川畑氏も、Claude Codeで設計させて既存のリポジトリに対する影響範囲などを問題ないかどうか人間が確認した上で実装に進み、「CodeRabbit」を用いてレビューをして人間とのやり取りを通していいところまで落とし込むという取り組みを紹介しました。このプロセスのさらなる全社への浸透を目指し、このプロセスで何かしらを形にする2週間の社内ハッカソンを開始したばかりだと語りました。

一方、吉本氏は、かつて行っていた「スペックドリブン(仕様駆動開発)」は「破綻する」として廃止したと明かしました。その理由として、AIに詳細な仕様書を書かせると、人間が読むだけで1時間、正当性の判断に数時間かかり、結果として自己満足に陥ってしまうのではないか、と話します。現在は、実行可能なレベルへのタスク分解をAIに行わせ、GitHubのIssue(課題)を起票し、その後のレビューもAIエージェント同士に何度も繰り返させる「ループリファイン」を取り入れています。また、「自分の開発フローに固執せず、AIの進化に合わせてその都度フローを作り変える柔軟性も重要」と話しました。
吉永氏も、AI駆動開発の導入によってコミット数が前年比で約5倍(200から1000へ)に急増したデータを提示。人間のスピードが追いつかなくなる中、自分たちが作るという行程は手を離すべきところまで来ているのではないかと実感していると話します。コードレビューの自動化や、「何のために作るのか」「どうしてそれが必要なのか」という本質的な要件定義に重きをおくような開発フローにできないかを考えているとも語ります。
テーマ③【コーディングエージェントとセキュリティ対策】
利便性の裏にあるセキュリティリスクへの対応は、各社最も神経を尖らせている部分です。
モデレーターの松岡氏からは、ネットワーク全体をCloudflareのゼロトラスト環境(※あらゆるアクセスを検証するセキュリティ手法)にし、ログの全取得やファイルのバージョン管理を行う取り組みが共有されました。
これに対し、川畑氏は、社内ガイドラインの策定に加え、GMOグループが提供する脆弱性診断サービス「Takumi Guard」を活用し、リポジトリの定期チェックを自動化している実績を語りました。
吉本氏も「Takumi Guard」のサプライチェーン攻撃に対する有用性を高く評価した上で、セキュリティを考える際は「最大リスク(顧客に迷惑がかかるポイント)」を定義し、壁を二重三重にする「宇宙船モデル(多重防御)」が不可欠であると主張。また、データベースにエンジニア以外が触れないようにするという基本的なことを粛々とやっていくことの重要性についても述べました。
また、吉永氏は、開発中のAIエージェントをお客さんに使ってもらう際、外部との通信をホワイトリストのみに制限し、サンドボックスに閉じ込める一般的なアプローチを徹底していると説明。さらに、開発時には「どのエンジニアが、どんな意思決定で、どんなプロンプトを投げたか」をすべてログとして記録する試みを紹介しました。

一方、里氏はClaude Codeで自動化できることは自動化するが、最終決定は自分でやるようにしていると話します。また、ログなどもすべて残し、定期的にセキュリティ回りのアップデートがないかをAIに調べさせ、何かあったら反映させるように指示を出して自動でセキュリティの高さを維持していると話します。
テーマ④:エンジニア以外の職種によるAI利用事例
AIディスカッションが一段と盛り上がったのが、非エンジニアによる驚くべきAI活用の実態です。
株式会社Village AIが地方創生事業として種子島で取り組んでいる「ブランドキノコの栽培実証実験」において、温度・湿度センサーと空調・加湿器を連動させる自動制御システムを、なんとプログラミング未経験のデザイナーがClaudeだけで構築。APIの知識ゼロからAIに質問攻めして完成させ、現在は完全自動でキノコが育っているという、会場がどよめく事例が披露されました。
さらに、里氏が主催する種子島での勉強会から、建設会社の事務職の方がわずか2週間で自社向けの勤怠システムを内製化し、結果として、コスト80%削減、月20時間の工数削減を達成したと話します。
また、営業やマーケティングにおけるチラシデザイン、案件管理システムの自作、スライド資料の自動生成、さらには社労士事務所においてExcelの関数や給与計算をその場でClaudeに聞いて解決するなど、職種の壁を超えた民主化が急速に進んでいます。
テーマ⑤:若手・新人の教育と育成
「AIがコードを書く時代に、若手はどう育てるべきか」という問いには、各社が現在進行形で頭を悩ませています。

株式会社Village AIの里氏は世の中的に「エンジニア不要論」などが叫ばれる中、若手(ジュニアクラス)が修行・成長するための場や機会が失われつつあると言います。コードを書く作業自体はClaudeなどの生成AIに任せる時代になっており、自力で書いてスキルアップを図る手法はもはや難しくなっているのが現実で、社員教育として全社員にClaude等のAIツールを使用させ、手動で無駄な作業を行っているメンバーには「なぜAIにやらせないのか」と指摘・指導を徹底していると話します。今後、AIが生成したコードや成果物を見て正しさを判断し、評価・修正・意思決定を行うことを中心にトレーニングが必要であると語りました。
株式会社現場サポートの川畑氏は、毎年新卒をエンジニアとして採用しており、フィヨルドブートキャンプ(オンラインスクール)で数ヶ月かけて基礎を学んでもらった後、社内システム開発などの「失敗してもいいプロジェクト」に投入し、実戦とClaude、先輩のサポートを組み合わせて育てる方針を継続していると話します。
株式会社ペパボの吉本氏は、「採用を絞る企業もあるが、最も変化に適応できるのはジュニア(若手)層。2年前と今で仕事が180度変わるような時代だからこそ、新卒採用は止めるべきではない」と力説。教育においては「知らないという状態を知る」ためのカリキュラムを2ヶ月間行い、「コードの背景にある意図やトレードオフ」を説明できる、心理的・本質的なアプローチが重要であると語りました。
株式会社ユニマルの吉永氏は、実務未経験のアルバイトから採用し、AIへの質問の仕方やプロンプトの組み方を段階的に教えながら、ビジネスの目的を理解できる人材へと段階的に育てる独自の育成フローを共有しました。
変化を学び、次の挑戦へ。AIとともに歩む、新たなものづくりの時代。
後半は参加者からの質問も飛び交い、会場一体となってさらに盛り上がりを見せ、熱い余韻を残したままイベントは幕を閉じました。
トークセッションを通して、生成AIの波が「開発のスピードアップ」という段階をとうに超え、「組織のあり方」や「職種の定義」そのものを変革するフェーズに入っていることを生々しく証明してくれました。しかしそれは、「エンジニアが不要になる」という意味ではありません。どれだけAIが進化しても、複雑なシステム同士を安全に組み合わせ、品質を保ち、最終的な「責任」を取る役割は人間にしかできません。従来の「プログラミングをする人」から、「AIを使って課題を解決し、価値を提供する人」へと、エンジニアの役割がより高次元にアップデートされているという視点は、参加者にとっても大きなパラダイムシフトとなりました。
mark MEIZANでは今後も、多様なゲストをお招きして、皆さまの学びやコミュニティ形成を後押しするイベントを開催してまいります。また、エンジニアリングやクリエイティブ、起業・経営のスペシャリストに相談できる体制も整えています。外部の知見に触れることで、新たな活路が見出せるかもしれません。ぜひお気軽にmark MEIZANをご活用ください!
