GMOペパボのAI活用最前線! 〜 Tech Surfers vol.5

急速な発展を遂げ、私たちの生活や働き方の前提を塗り替えつつあるAI。導入を検討する組織が増える一方で、活用方法の正解が見えず、セキュリティへの懸念や現場の戸惑いから一歩踏み出せずにいるケースも少なくありません。

2026年4月3日、「GMOペパボのAI活用最前線!~Tech Surfers vol.5」を開催しました。ゲストは、GMOペパボの吉本康貴氏。全社的にAIを導入するための取り組みと、その根底にある思想について語っていただきました。

会場には、エンジニアをはじめ様々な職種の方々が集まりました。その数なんと40名以上。定員を上回る参加者の数に、AI活用への注目度の高さがうかがえます。

「具体的な活用の仕方はすぐに陳腐化する。今回は考え方や見方を持って帰ってもらいたい」ー吉本氏のそんな言葉から講演は幕を開けました。いったいどんなお話が聞けるのか、会場いっぱいに期待感が膨らみます。

社内の課題解決をプロダクトへと昇華させる

吉本氏は、理学療法士から未経験でエンジニアへ転職した異色の経歴を持ち、現在はGMOペパボ事業開発部のエンジニアリングリードを務めています。同社は、「もっとおもしろくできる」を企業理念として掲げ、個人の表現活動を支援するための様々なウェブサービス及びスマートフォンアプリを提供している会社です。

そんな同社では、これまで積極的にAIを導入してきました。まず始めたのが、自社の社内外のお問合せの一次受け対応にAIを導入したというもの。これにより、2024年1月から5月の間に1,620時間ものお問い合わせ対応にかかる時間を削減することに成功したといいます。そして、このAI導入による社内の課題解決をもとにして、伴走型のAIエージェント導入支援サービス「GMO即レスAI」をプロダクト化。さらに、AIにより業務負担が軽減した部署のメンバーにはリスキリングを推奨し、AIを活用するディレクターや人事、経理へと配置転換を行いました。AI活用が単なる業務改善にとどまらず、新たな価値を生み出しうることを示した実例は、参加者にAI活用のポテンシャルを強く印象付けました。

AIによって「変わるもの」と「変わらないもの」を見極める

AIの進化スピードは凄まじく、ChatGPTの公開からわずか3年余り、Claude Codeが登場したのは2025年。この速度感では3年後の予測すら困難な状況です。そこで吉本氏は「3年後に変わっていないものは何か?」という逆説的な問いを提示しました。

吉本氏はエンジニアリングにおける不可逆な変化として「生成量・品質」を挙げ、「もはやAIエージェントなしの開発には戻れないだろう」と話します。そしてこれらはエンジニアリングに限ったことではなく、翻訳や数値分析など、あらゆる知的作業において同じ構図が生まれつつあるといいます。講演が進むにつれ、会場にはAIの台頭による危機感が改めて共有されていきました。

吉本氏は、AIの能力が向上し続ける未来を前提としたとき、私たちは「AIに仕事を奪われるのか」ではなく「AIを使いこなす組織が使わない組織に取って代わる」という認識を持ち、「AIを前提にした働き方と組織をどう作るか」と問い直すべきだと強調。これは、AIに限った特別な議論ではなく、急速に進化している分野に対して、いかに組織を適応させるかという組織づくりの話であると力強く説きました。

GMOペパボでの実践例

同社のAI前提の組織づくりとして、3つの取り組みが紹介されました。

1つ目は、情報共有の場づくりです。部署を問わずAI活用事例を気軽に共有できるSlackチャンネル「AIわいわい」の開設や、事業部横断でAIに関する取り組みを報告する週次ミーティング「AIわいわいキープ」を運営しています。「AIを使っている人が特別な人」ではなく、誰もが参加できる文化をつくることを意識しているといいます。

2つ目は、各部署への「AI大臣」の任命です。トップダウンでAI活用を指示するだけでなく、現場の実践から知見を集めて横展開することを目的としています。

3つ目は、ボトムアップとトップダウンの融合です。現場の実践知の蓄積と、CEO・CTOによる経営判断と遂行が連鎖する形で、「試して、実証して、広げる」サイクルを回してきたことが、AI活用を前進させた鍵だと吉本氏は述べました。

不作為のリスクを考える

AI導入において、情報漏洩やスキルの空洞化を懸念する声は絶えません。しかし吉本氏は、それらを直視したうえで、それ以上に「不作為のリスク(AI導入が遅れるリスク)」の大きさを考えるべきだと強調しました。その根拠として吉本氏が挙げたのが、産業革命期の「ラッダイト運動(機械打ちこわし)」という歴史の教訓です。変化を拒むものが辿る末路を警告しつつ、AIの進化は産業革命的であるとの見解を語りました。吉本氏は、AIは初めて「知的能力」を拡張したツールであり、スマホやPCと同等かそれ以上のインフラになると断言。歴史を教訓に、AIのリスクやそれを恐れる人の存在を否定せず、一方で導入しないことによるリスクを考えるべきと語る吉本氏の冷静かつ現実的な視点は、会場に心地よい緊張感を与えました。

では、まず何をするか。マインドセットを変える、小さくAIを活用するなど4つのアクションが示されました。その中でどこから手をつければいいかという問いに対して、吉本氏は「制約理論」の視点を紹介。企業全体でなくても、チームや個人の業務の中で「最も時間がかかっている」作業、すなわち”ボトルネック”を見つける。そのボトルネックの解消が、全体の改善につながるという考え方です。組織全体でのAI導入は大がかりで難しく捉えがちですが、身近な一歩から始めるこのアプローチに、参加者それぞれのAI活用に対する解像度が一気に高まったようでした。

新たな知見に触れ、時代とともに自らのアップデートを

吉本氏の熱のこもった講演に応えるように、参加者からは30件もの質問が殺到しました。「AIを使うほど増える、人間による判断の数を減らす取り組みはしているか」「AIエージェント開発時代へのテストの重要性」などの質問に対し、一つ一つ丁寧に回答する吉本氏。質疑応答を通して、AIを最大限活用するために人間に求められること、AIとセキュリティの問題といった、これからのAI社会を生き抜くための重要な指針をお示しいただきました。

今回のセミナーは、AI導入を特別視するのではなく、技術の進化や時代の変化に伴う組織の必然として捉え直す、貴重な機会となりました。参加者からも「とても勉強になりました」「有料級の内容でした」と満足の声を多くいただきました。

mark MEIZANでは今後も、多様なゲストをお招きして、皆さまの学びやコミュニティ形成を後押しするイベントを開催してまいります。また、エンジニアリングやクリエイティブ、起業・経営のスペシャリストに相談できる体制も整えています。外部の知見に触れることで、新たな活路が見出せるかもしれません。ぜひお気軽にmark MEIZANをご活用ください!